貴方。
あなた。
アナタ。

愛しい愛しいエドワード。

貴方はいつまで私の傍にいてくれるのでしょうか。


「愛してる」


惹かれてしまった。
どうしようもなく焦がれてしまった。

その瞳に、その髪に、その意思に。

紅い世界しか知らなかった私を照らしてくれる金色の光。

一目見て、奪われた。















          それが貴方との出逢い





















Is not there regret?
(後悔はないのですか?)























「オマエ、こんなところで何やってるんだ?」


紅い世界で眼が覚めた。
身体はひどく重くて、手も足もかたかたと震えている。
これは恐怖ゆえ?
否、目覚めてい過ぎただけだろう。
始めたのは確か96時間ほど前で、きっと終わったのはほんの2時間前だ。
さすがに今回は疲れた。
ゆっくりと上体を起こし、軋む身体にギアを入れる。
嫌な汗がべたりと肌に纏わりつき、
鉄の臭いが脳の奥まで染み付いている。

気持ち悪い。

どろっとした赤黒いモノが私の服に染み付いていた。










ああ、まただれかがいなくなってしまったんだ










「おい、聞いてんのか?」


―― 誰かいる ――
反射的に身を構え武器を手にする。
もう誰もいなかったはずなのに。


「アナタ、誰?」

「オレはエドワード。エドワード・エルリック。国家錬金術師だ。」

「そう。それで、その軍人さんが何の用ですか。」

「むしろオレはお前がなんでここにいるのか知りたいけどな。」


そう言って、その人、エドワード・エルリックは辺りを見回した。
暗闇の中に不気味に浮かび上がるのは変色して部屋一面を覆いつくす 血、血、血。
今にも吐きそうになる空気が充満している。
エドワードは眉をひそめてもう一度、自分と大して歳も変わらないような少女を見た。


「説明しろ。お前はここで何をしていた?」

「さあ?そんなの自分が知りたいわ。」


自嘲気味に微笑んで、情けなく思う。
きっと、また誰かを殺していた。
それはなんとなく分かる。
けれど、どうやって、何人殺したのかも分からない。
肉塊を誰が片付けたのかも分からない。
(見渡してあるのはこびり付いた血だけ)

なんでじぶんがころすことになったのかわからない







「……本当に、分からないの。」


自分でも驚くくらいのか細い声を漏らしたのは本当に私だったのか。
ただ、彼が、エドワードがまっすぐに私を見つめてくるから。
穢れの無い澄んだ瞳で見つめてくるから。
少しも逸らそうとしないで、少しの欺瞞も含んでいなくて。

じっと、私を見つめる眼を見つめ返した。





















一体どのくらいの時間が流れたのだろう。
10秒だったかもしれないし、1時間だったのかもしれない。
エドワードは不意に視線をズラすと、自分の上着を脱ぎ始めた。
真っ赤なコート。
それはこんな、私に染み付くくすんだ赤なんかじゃなくて、
純粋で力強い、真っ赤な、とても真っ赤なコート。
彼はそのまま黒のジャケットにも手をかけた。
躊躇いもなく脱ぎ捨てる。
均整の取れた肉体が惜しげもなく月光に照らされた。


「!貴方、それ……」

「機械鎧。知ってるだろ?」


機械鎧。
普通の義手と違って神経に繋がれて鈍く光る肉体となる。
ただ、その手術にはひどい痛みと熱が伴う。
今まで何度か機械鎧を付けている人を見た。
(大抵すぐに命を失うことになった人たちばかりだけど)
けれども、こんなに美しい機械鎧は初めてだった。
否、機械鎧じゃない。

こんな美しい人を見たのは初めてだった。






「エドワード・エルリック。」






なぜか、呼びたくなった。
私のような人間が恐れ多くも口にしていい名前じゃないと思う。
それほど気高く、揺るぎ無いものに思えた。


「エドワード・エルリック。」

「ああ、お前の名は?」


彼が一歩ずつ近付いて来る。
私の手からはいつのまにか武器が滑り落ちていた。
彼が歩く場所から花が咲くように、清らかな空気が広がってゆく。
私の穢れが浮き彫りになる。
息をするのも困難で、でも今ここで死ぬのもいいと思った。
この人に看取られるのなら十分だ。
掠れた熱い息と一緒に忌々しい名前を吐き出す。




。」




目の前の貴方は少し眼を開いて、微笑んだ。
微笑んだのだ。
久しぶりに誰かの笑った顔を見た。
そんなことが頭に過ぎって、差し出された。









「手。」









鈍く光る機械鎧。





、お前をここから連れ出してやる。」





冷たい外装とは裏腹に優しい手。





「オレも一緒に背負ってやる。」





キレイナ テ 。















                          「だから、オレの所に来い。」
















そうして貴方の手を取った愚かな私をどうか赦して。















(2005/11/27)


sozai:Dear シシュ