「手。」


そうぶっきらぼうに言い放ったのはあなた。
金色の髪と金色の目。
誰もが一度はそうなりたいと願った容姿を持ち合わせた人。
そして誰よりも強く気高く、そして脆い。
過去の罪の証。
それが鈍く光を帯びる機械鎧。
少年の繊細な肉体には少しも似つかわしくない。

差し出されたその冷たい手を、握り返した。
汚れきった自分の手で――――。












「エドーっ!エドワードっ!!」
「んだよ、朝っぱらから。」


半分寝起きのエドワードの部屋を訪ねると彼が不機嫌を露に応える。
だけどそんなことお構いなしにはベッドに座るエドの前に立った。


「私ちょっと故郷に帰る。」
「はぁ?」


冗談なんて後でいい、エドワードは気だるそうに首の辺りを掻く。
しかしそんな様子に少しも怒る気配など見せず彼女は淡々と話を進めた。


「原点回帰。行って来るね。」


そう言い放つとそのまま部屋を出て行ってしまった。
一瞬頭が止まって、すぐにフル稼働を始める。
何て言った?あいつ………。
帰るって………―――――


………?」


急いで彼女の後を追ったが、もうその姿はどこにも見当たらなかった。
言いようの無い焦燥感。


「あれ、兄さんどうしたの?」


だらしなく服を羽織っただけで、靴もまともに履かず外に突っ立ているエドワード。
弟アルフォンスは不思議そうに見る。


……、は……?」
?朝起きておはようって言われたっきり見てないけど....」
「!!………っクソ……ッ」


エドワードは力任せに壁を叩く。
生身の腕だって少しも痛くない。
本当に痛いのは―――。


「え………兄さん?がどうしたの?」
「帰った。」
「?一体どこに………」
「故郷、だとよ。」


故郷。
その言葉にアルフォンスも戸惑いを隠せない。
故郷に行くというなら迎えに行けばいい。
行ければいいのに。


「どこだよ、あいつの故郷は………」


苦々しく吐き捨てるエドワード。
彼は彼女の故郷を知らない。
まして本名さえも。
彼女がと名乗るからだし、ただそこにいればいいと思っていた。
だから何も気にしなかった。
何も関係なかった。
たとえ彼女と出逢ったのが血の海の中だとしても。
彼女にどんな過去があろうとも。


「どうすりゃいいんだよ。」 
     
                              
悔しさに顔を歪めるエドワード。
居た堪れなくなったアルフォンスはそっと兄の肩に手を置く。


「大丈夫だよ兄さん、のことだからすぐに戻ってくるって。」


しかしエドワードには不明確な、でも確かな確信があった。


「あいつは……もう戻って来ねーよ。」


呟くような小さな声を漏らしてそっと目を閉じる。
ああ、オマエはそういう奴だったよな。
絶対に捕まらない。
いつだって、オレの手の中にはいてくれない。

愛しているのに―――
















「手。」


そう言って伸ばしたその手を掴むオマエはもういない。
ただ虚空ばかり握るそれを一体どうしたらいい?
オレの手から始まった物語は、結局オマエの手で終わらせるのか?
なぁ、
オマエは今どこにいるんだよ―――。















(2005/11/02)


sozai:Dear MIZUTAMA