幼
い
自
分
と
今
の
自
分
背が伸びた分だけ見えるものが多くなった。
学んだ分だけ分かることが多くなった。
貴方の傍にいる分だけ愛を知ることが多くなった。
「ねぇ、エド…」
「何か用か?」
「うっううん!何でもない!」
視線を大して頭に残ってない本に戻して。
エドは訝しげな顔をした後、まぁいいかって自分の本に集中した。
昼下がりの静かな図書館。
ちらりとエドを盗み見ると真剣な瞳で本を痛いくらいに刺していた。
きっと私があの本なら心臓止まっちゃってるよな、なんて。
エドを愛しいと思い始めてから、エドを一人の男性として想うようになってから、
私はいつもエドによって卒倒させられそうになる。
愛しい、愛しい、そんな想いばかりが込み上げてきて、真っ直ぐ見ることなんて出来やしない。
さっきみたいにちょっとの会話ですら鼓動は早鐘だ。
如何にもしようがないこの気持ちを持っていなかった昔の自分が羨ましくて仕方がない。
「私エドのこと大好きよ」
そう言ってエドに抱きついてた自分が恥ずかしいようで、今の自分には到底考えられないことだ。
いっそあの頃と同じようにしてみるか、なんて考えたって実行不可能。
今の気持ちは当時の気持ちと似て非なるものであるから。
いつまでも重く心に圧し掛かるコレを如何すれば良いのか教えて欲しいくらい。
「」
「ッ!?あっ、はいっ!」
「ビビりすぎだって。それより、息抜きしないか?」
「えっ、い、いきぬき?」
「そ、天気良いし、外行こうぜ!」
私の返答なんて聞かずにエドは私の手を取った。
アルに一言残してぐいぐい引っ張ってゆく。
顔が火照りすぎて脳みそが沸騰しそうだ。
「ね、エド。何処まで行くの?」
「内緒」
どこか嬉しそうに(腹に何かを据えているように)しているエドを疑問に思いながら、引かれるまま街外れまでやってきた。
そこにはキラキラ輝く川が流れて、小さな草花が風にそよいでいた。
「わぁっ!すごい!」
「きれいだろ?」
「うん!」
柔らかな風が肌を撫でて、温かな草花の香りが安心感を与えてくれた。
手を伸ばして触れた川の水はまだ冷たさが残っていたけれど、それもまた気持ちよかった。
こんな場所はリゼンブール以来だな、なんてぼんやり考えていたら、ふっと背中に圧力を感じてそのまま川に飛び込んでしまった。
バシャりと派手な音を立てて全身に感じる冷たい水。
犯人はすぐに分かった。
「エドっ!冷たいじゃない!」
「あははっまぁ水も滴るとか言うじゃん」
「冷たいものは冷たいし、びっくりするものはびっくりするの!」
「はいはい、ほら、手出せよ」
いくらなんでも酷い仕打ち!
其れなのにエドはお構い無しにさわやか笑顔で手を差し伸べてくる。
なんなんだこの人は。
頭にキたので差し出された手を強引に引いた。
前屈みになっていた所為かエドの身体は容易く水に落ちた。
「…ッッ冷てーっ!なにすんだよ!」
「先にやったのはエドでしょ!」
ばしゃんと水面を叩くと大きな波がエドの顔面を襲う。
いよいよ眉間に皺を寄せてきた。
「うわっやったなお前ッ」
「キャッ!もーエドっ!風邪引いちゃうじゃない!」
「だったらお前も水かけんのやめろよ!」
「止めたらエドが仕返しするじゃない!」
「くっ…とーにーかーく!いい加減にしろっ!」
そうやってしばらく水かけの応酬を繰り返した。
エドとこんな風に笑いあってはしゃいだのはいつぶりだろう。
エドとこんな風に向かい合って話せるのはいつぶりだろう。
忘れていた昔のように、エドとこうやっていることがくすぐったくて幸せだった。
「こらっ待て!」
「やーっ!やっちょっ離して!」
ぱしゃりと水をかけていた手を掴まれ、動かせないくらい強い力を感じた。
ふざけているのだと思ったら、その金色の眼は思ったよりずっと真剣で。
とくり、と胸が鳴るのが分かった。
「これでもう逃げられない」
「…ッ!……エ、ド………?」
「最近まともに眼ぇ合わさねぇし、声かけると避けようとするし」
「あのっ…それは……」
「嫌われたかと思った」
「!!」
泣くような瞳で見つめられた私は如何することも出来なかった。
それでももうこの気持ちを抑えることも出来なかった。
確かにあの頃に比べて随分あの想いは変わってきたけれど。
でもこうやってエドとはしゃいで笑い合っているときがずっと幸せだと思った。
私があの想いを口にしても、同じように笑い合えるかな?
そんな祈りを込めて。
忘れてた幼い頃の自分を今の自分に重ねて、そっとあの言葉を口にした。
(2006/03/19)
お題提供:Abandon様『鋼的10のお題』