真っ暗な空に重たい暗雲。
キラキラの太陽は昨日からずっと引きこもりのようだ。
地面に落ちた雫が跳ね返ってまた空に帰るんじゃないかというくらいの激しい土砂降りが嫌な湿気をもたらす。
じめじめと肌を撫でる感覚とは何時も仲良く出来ない。
別段雨が嫌いだというわけでもないけれど、酷すぎる雨は森と畑に降れば十分だ。
わざわざ私の気持ちを曇らせなくてもいい。
そういえば、三日前に此処に泊まり始めたおかしな兄弟がいた。
大きい鎧の弟にその半分くらいのサイズの兄。
なんてでこぼこなんだ。
年が近かったせいもあるし、彼らの旅の話は魅力的だった。
聞けば十代半ばの彼ら。
如何して二人で?親はいないの?
そんな大人が抱く疑問なんてさらさら頭に残らない。
ただ、彼らの運んでくる外の空気が清々しかったのだ。
毎晩彼らの部屋に行っては話しをしてとせがむ自分はやはり子供だったかもしれない。
其れでも快く受け答えしてくれたのは嬉しいことこの上なかった。
さあ今夜も今晩はと決め込むか。
旅人だということは此処にいる時間も限られる。
出来る限り外の空気が欲しかった。
自分のいない世界の話が聞きたかった。
「こんばんは、エド、アル」
本当ならノックの一つや二つ必要なのだろうが、如何せん私は常識知らずだ。
まるで我が城のようにズカズカと足を踏み入れていった。
でも其処には大きい鎧の弟の姿は見当たらず、小さめサイズの兄がベッドで寝そべっていた。
なんだ、お休みか。
其処で引き下がれば可愛い女の子で済んだものを。
とにかく長い雨で苛立っていたのと、その反対に安らかな寝顔を見せる兄の姿が憎らしくて。
(そもそも「明日も行くから」と昨日言ったこと覚えてないの?)
ちょっとばかりデコピンでもしてやろうかと彼の寝顔を覗き込んだ時。
彼の眉間に急に皺がよって呻き声が零れた。
「ごめ…ん…なさ…、母さ…ん……」
「?……怒られたときの夢でもみてるのかしら」
やっぱりいくら大人っぽくても中身は子供ね。
ホームシックに捕まっちゃたの?
だけどそんな彼の姿は私の母性本能とやらを鷲掴みにしてくれたらしい。
乙女ちっくに鳴った私の鼓動は次の一言でぴしゃりと止まった。
「母さ…ん…、に…かい…も…、殺…し、…て…ごめ……ん……」
私は彼の禁猟区に不躾に踏み込んでしまった愚か者でしかない。
何も知らなかったことの罪
(2006/03/19)
お題提供:Abandon様『鋼的10のお題』