昼下がりの午後。
この頃は冬の刺すような寒さは和らいで、日差しも暖かくなった。
しかしそんな季節の移り変わりなど目の前の人には何の関係もないらしい。
朝から晩まで図書館に篭りっきりで、分厚い本を読み耽っている。
いつものこと。
そして、仕様が無いこと。
頑張ってる彼らを、私は最大限尊重することにしている。
彼らの夢が、いつしか自分の夢にもなっていたから。
真剣な面持ちで食い入るように文面をなぞっている顔(といっても下を向いているからほとんど分からないのだけど)を見ていたらどうしようもなく胸が締め付けられる。
いつも思う。
この人は自分のことを一番に考えなければならないはずなのに、他の人のことばっかり。
私なんか構わずにどんどん前に進めば良いのに。
私なんて見捨てて自分を守れば良いのに。
私を守って傷つく貴方を見るたびに自分の存在を呪う。
其れでも貴方と一緒にいたいなんて、本当に傲慢なお話。
そんなことを思いながらぼんやり読んでいた本はもう終わってしまった。
まったく頭には残っていない。
まあ、これはただのありきたりな恋愛小説。
何も覚えてなくともなんら問題はない。
音を立てないように静かに席を立って、新たな本を探す。
なんとなく、普通の本は読みたくなかったので異なる種類の本棚へ向かった。
気分が変われば何でも良かった。
本棚の端からじーっと見ていくと、ふと目に止まった一冊の本。
背伸びして手に取ると大分古めかしい。
タイトルは『名前の由来』。
一体如何してこんな本に惹かれたのか分からないけれど、とりあえず捲って読んで見る。
どうやら人名の根本の由来が書かれているようだ。
アルファベット順に並ぶそれらをなぞっていくと、あの人の名前が載っていた。
「………………ッ!!」
見た瞬間に目頭が熱くなった。
温かい水がほろほろと零れ落ちてくる。
その本をぎゅっと抱きしめ彼を思う。
あの人は、自分を的確に表現する名の通りに生きていた。
おそらく母親がそうなって欲しいと願った名の通りに。
気高く、力強く、優しく。
彼は誰にも恥じないようにその名を全うしている。
「…………………?」
「ッ!!」
「どうした!?」
泣いている私を見るや否や、彼は私に近付いてきた。
抱える本ごと私を抱きしめる。
「誰かに何かされたのか?」
「ちがっ…そうじゃ、なく…ッて…」
説明しようにもうまく言葉は紡ぎ出てくれなかった。
ただ泣き続ける私を、彼は優しく抱きしめ頭を撫でていてくれる。
ああもう如何してこの人はこんなにも……
「……ありがとう…ッ」
「?」
口を出たのは感謝の言葉。
言っても言い足りないくらい貴方に私は言わなければならない。
辛いとき、悲しいとき、嬉しいとき。
どんなときでも傍にいてくれた貴方に。
「……?」
不安げに覗き込んできた彼に、私は笑顔で返す。
「いつも守ってくれてありがとう」
本を床に置いて、今度は自分から彼を抱きしめた。
きつく、きつく。
そしてその耳元でそっと囁く。
「エドワード」
なんて素敵な名前なのかしら!
貴方を表現するのにこれ以上の言葉は少しも見当たらない。
満足げに彼を抱きしめる私とは裏腹に、彼は少し頬を染めつつ納得いかない顔をしていた。
無理もないとは思う。
「…いや、その、ありがたいんだけどさ…ほんとどうしたんだ急に?」
「嬉しかったの」
「?」
「エドが、エドワードだったから、嬉しかった」
やっぱり分からないようだったけど、彼は諦めたのか、いつまでもしがみ付く私を抱きしめ返してくれた。
それがまたどうにも嬉しくって、私はまたぎゅっと腕に力を込める。
「エドワード」
「」
「エドワード」
「」
「エドワード」
「」
「…………」
「…………」
「………ぷっ」
「ったくなんだよほんとに!」
目を合わせ、くすくすと声を潜めて笑い出す。
彼は呆れた様に笑って、へんなやつ、と唇を私の額に寄せた。
くすぐったくて、嬉しくって、同じことを彼の頬に返す。
じゃれるように唇を付けあって、またくすりと笑う。
「エドワードに出逢えて良かった」
一瞬びっくりして照れる彼に、私はもう一度「ありがとう」と呟いて、その唇に口付けた。
精一杯の感謝の気持ちを込めて、最上級のありがとうを貴方に。
いつも守ってくれてありがとう
いつも傍にいてくれてありがとう
いつも抱きしめてくれてありがとう
いつも愛してくれてありがとう
いつもいつもいっぱいありがとう
【Edward】
盾のような「守るもの」を意味する
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友人に教えてもらった名前自体の由来。ものすごく萌えました。
(2006/03/10)