「私も…機械鎧の整備師になろうかな…」
そう思い始めたのは最近のことじゃないけど。
ずっと前からエドの役に立ちたいって思ってたけど。
今 この光景
正直かなり耐えられない。
あの場所は私の場所なのに。
そんな風に近くに、そんな風に笑って。
「、なんか言ったか?」
「別に」
彼女とのおしゃべりで私の呟きなんて聞こえなかったんでしょ。
彼女。
女の子。
つまりはウィンリィ。
エドとアルの幼馴染みで二人とずっと一緒に過ごして、
二人のことは私よりも沢山知ってて。
そして―――
エドのことを愛してる女性。
おそらく伝えてはいないだろうけど、エドに向けられる視線には紛れもなく愛しさが。
幼馴染みに見せる愛情じゃない。
その彼女はエドにとって必要不可欠。
ウィンリィは機械鎧整備師だから。
「私、アルの所に行ってくる…」
声を小さく落としてアルの部屋に向かった。
相変わらずエドとウィンリィの怒鳴り声と笑い声が響いている。
む か つ く
扉を壊れるくらい強く閉めた。
「…あいつどうしたんだ?」
「さぁ?あんたがちっさいから嫌気がさしたんじゃないの?」
「ちっさい言うな!!」
「まぁ良いじゃない、に捨てられたら私が面倒みてあげるから」
「オレが捨てられるわけねぇだろ」
「でも女心なんて分からないじゃない?
もしかしたらもうエドのことなんか飽きちゃってるかもね」
「……そんなんウィンリィが分かるわけ…」
「分かるわよ。同じ女だもん」
「………………」
「フラれたらいつでも慰めてあげるわよ」
「……余計なお世話だ」
せくせくと作業を続けるウィンリィの横で、
エドワードは不安定な気持ちに襲われていた。
本当に 厭きられてしまったのか と。
「アル…」
「どうしたの、兄さんは?」
「まだウィンリィと一緒」
“整備中”ではなく“ウィンリィと一緒”という表現に、
アルフォンスは目の前の彼女の機嫌の悪さを見た。
自分より年上の彼女が感情を吐露にする様子は正直可愛らしいと思えた。
「話、聞くよ?」
「誰にも言わないで」
「分かってる」
優しいアルフォンス。
気持ちの変化に敏感で、ちょっとでも落ち込んでたらさりげなく支えてくれる。
思慮深くて、選ぶ言葉も優しい。
とても尊敬出来るし、辛い時にはいつだって側にいてくれる。
「どうしようアル…私すごく嫌な女だ…」
「そうかな?」
「そうよ。だってウィンリィがすごく嫌だもん」
「でもそれって普通じゃないの?」
「普通じゃないくらい嫉妬しちゃうの」
「それはが普通じゃないくらい兄さんのこと好きってことでしょ」
「……………好きだよ。でもそう思ってるのは私だけみたい」
「そんなことないよ」
すねたような視線を這わせるがいたたまれなくなって、
アルフォンスはその大きくて固い手をの頭に乗せた。
子どもをなだめるようにゆっくりと撫でる。
「私はッ…私だけを見て欲しいのに…っどうしてエドは…あんな風にウィンリィと…ッ」
「…でも兄さんは……」
「もうエドが信じられないよ…」
こんなに好きなのに。
大好きなのに。
貴方は私だけを映してくれない。
私以外の女の子をその綺麗な瞳に平気で映す。
否、ただ私が平気じゃないだけ。
私が貴方を愛しすぎてるだけ。
「アル…っアル…ぅッ」
そのままアルにすがりついて泣きじゃくる。
子供みたいに、ただ。
アルの体は鋼鉄で温かさも柔らかさもないけれど、だけど優しい。
不思議な心地に私は素直に甘えていた。
近付く足音にも気付かずに
「…ちょっと話が……ッ!?何やってんだよお前ら!!」
「にっ兄さん!」
エドの目の前には抱き合う二人にしか見えない。
ずかずかと中に入るとアルにすがるを無理矢理引き矧がした。
ギロリと睨んでくるエドにアルも堪らずムッとする。
「言っとくけど、兄さんのせいだからね」
「どういうことだよ」
「僕なら好きな子をこんな風には絶対しない」
「……っだから一体何が原因で…」
「もしまたをこんな風にしたら、今度は僕が貰うからね」
そう言い残すとアルは部屋を出ていった。
残されたのは放心しながらはらはらと涙を雫すと、未だ状況に追い付いていないエド。
気まずい雰囲気が流れる。
エドは顔をしかめて、でも泣いてる彼女をどうしたらいいのか分からなかった。
低い声で唸るように言葉を漏らす。
「どうしたんだよ」
「っ…エドがいけないんだ……ッ」
「オレが何したんだ?」
「……いいよ、もう…エドには絶対分からないから…っ」
「んだよそれ」
「……ッしらないしらない!もうエドなんかしらない!」
こっちがこんなに悩んでるのに。
エドのいつまで経っても分からない様子にカチンときた。
なんでもっと分かってくれないの?
なんでそんなにウィンリィに笑顔を見せるの?
他の誰にも見せないとっておきの笑顔を。
悔しかった。
苦しかった。
悲しかった。
心底自分が嫌になった。
「エドなんてずっとウィンリィと一緒にいればいいじゃない!
私がいなくたってエドは生きられるもの!
……ッ、私はエドがいなくちゃ生きていけないのに……っ!!」
一息で言い終わる。
エドはどんなに呆れるだろう。
愛想なんてすぐに尽かしてしまうだろう。
「エドのばか……勝手にどっかいっちゃえばいいんだ…」
勝手にわたしから離れていけばいい。
そしたらわたしは貴方を惜しんで縛り付けなくて済むもの。
貴方が一番大事だから。
貴方がわたしの一番だから。
こんなわたしの傍にいなくてもいい。
「………行ってもいいんだな」
はぁっという溜息。
見上げるとエドは頭を掻きながら表情のない顔でいた。
でも眼は明らかに怒っているもの。
「は、オレがウィンリィの所に行ってもいいんだな」
確認するような、低い声。
ずしりとおなかに響く。
涙腺がふるふると震えだして、温かい水が零れそうになって。
さっき じぶんが いったことばを のろう
ツンとした態度でエドはわたしから離れてゆく。
いやだ いかないで
「……やだっ…、いやだよエド…ッいっちゃやだ……」
子どものようにエドにすがりつく。
いつもの黒いジャケットを掴んで。
行かないように。
離れないように。
傍にいるように。
「謝るから…だから 行かないで……」
だって わたしは
「エドがいないと死んじゃう」
あなたのように きれいではないけど
あなたのように けだかくはないけど
あなたのように つよくはないけど
それでも あなたが いとしい
なによりも
だれよりも
そばにいて
あいして
「バカはどっちだ」
ああ だから エドがいいんだ
エドの熱に 包まれる幸せ。
「ごめんなさい…ごめんなさい……ッ!」
「ったく、最初っから素直になれっての」
「だって…エドが呆れるから…嫌われたくないから……」
「だーかーら、オレは言われなきゃわかんない奴なんだから言ってくれよ!」
ぐいっとほっぺを両手で挟まれて上を向かされる。
エドと必然的に眼が合う。
そこにいる顔を赤くしたエドと見つめあう。
どんどん恥ずかしくなってくる。
顔が死ぬほど熱くなる。
「……オレだって、お前の嫌がることなんかしたくねーし。
言ってくれよ、一人で苦しむなよ。
お前がいなきゃ生きていけないのはオレも同じだ」
少し眼を細めて。
見つめられる瞳が優しくて。
醜いじぶんまでぜんぶ受け入れてくれるエド。
黒い心が溶けていく気がした。
許される気がした。
エドのことばだけが わたしのすべてです
「……キス、してください」
わたしはウィンリィとは違うって示して。
わたしが特別だと言って。
眼を閉じる。
ふわりと近付くエド。
唇に触れる温かな感触。
「……愛してる」
「わたしも」
100万回言っても足りないくらい。
「愛してる」
機械鎧の整備中。
いつもはムカつく光景だけど、ちょっと変わった。
エドの右腕を整備してるときはわたしはエドの左に。
エドの左脚を整備してるときはわたしはエドの右に。
いつでもエドの隣にいる。
ウィンリィは不機嫌そうにしてるけど、そんなの構うもんか。
だってわたしがエドを見たらエドはいつも笑ってくれる。
わたしだけのとっておきの笑顔で。
わたしだけを愛しいと思ってくれている瞳で。
それはわたしの自惚れだけど。
それでもいいんだ。
貴方が エドワードが 傍にいてくれたら
愛してください
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