「エドってさ、昔ウィンリィのこと好きだったんだよね」


ぶはっ


エドワードは飲んでいたコーヒーを見事に噴出した。
そしてゴホゴホと咽ながらも抗議の声を上げようと喘いでいる。
しかし一向に咳が治まらない。
は何やってんのよとエドワードを横目に悪態をつきながらも机を拭いた。


「落ち着いた?」
「ああ…」
「で、そんなに焦るってことは好きだったんだね」
「!!そっそれは…その……」


しどろもどろで目を泳がせているエドワードは一目瞭然だ。
何て分かりやすい奴。
それに顔だって少し紅い。





                   なんか いやだ





「もしかして、まだ好きとか?」
「なっ何でそんな話になるんだよ!?」
「だって、ね。ほら…女の勘?」


見てれば分かるよ。
エドワードの視線は特別な人に対するもの。
大切なものを慈しむような、優しい眼。
幼馴染で括るには大きすぎる想いが見え隠れしている。




                   く や し い 




「前も『今度泣かせる時は嬉し泣きだ』ってウィンリィに言ってたし…。
 そんなこと言われたら女の子なんてコロってきちゃうよ。
 大体そんな誰にでも言えるようなセリフじゃないしね。
 ウィンリィってやっぱエドにとって特別なんだなぁって実感した。
 うん、そうだよね。エドはウィンリィが好き。
 しょうがない、しょうがない。
 ごめんね、もういいよ。バイバイ」


ガタンと音を立てて椅子から立ち上がる。
耐えられなかった。
エドが自分以外の女の子にあんなに優しい眼を向けるのが。
不安になる。
いくら愛の言葉を囁かれても、不安になるんだ。
だって人の心は変わりやすいから。
言葉を途切れさせたら涙が零れてしまいそうだった。
勝手だって思われても我儘って言われてもいい。













           しっとなんてそうかんたんになくせるものなんかじゃないの









                   「エドなんか大嫌い……」













捨て台詞。
これで良い。
荷物まとめて今すぐ故郷に帰ろう。
いつまでもここにはいられない。
エドの隣にはいられない。



                   







                   だ い す き だ か ら











「……………待てよ」


静かに響くエドワードの声。
びくりと肩が震える。
だって、それは、怒ったときの声。
振り返れない。
今 どんな顔してる?
私はどうしようもなく泣きそうです。
一歩踏み出すごとに貴方から離れていく。


「言いたいことだけ言って逃げる気かよ」
「………………」


ドアノブに手をかける手が止まった。
言い逃げ。
だってそのつもり。
エドの話を聞いたら、声を聞いたら、姿を見たら。
もう嫌になる。
エドを自分だけのものにして閉じ込めたくなる。
他の人を見ないで。













                        わたしだけを みて











「俺の話は聞く気無しか?」
「………聞きたくないだけよ」


これ以上嫉妬で狂いたくない。
貴方の口から彼女のことが零れる度に溢れ出る汚れた心。





               もう いやなんです





「ウィンリィはただの幼馴染だ」
「本当に?本当にそう言い切れる?幼馴染だって女の子なんだよ?
 エドはそう思ってなくたってウィンリィは違うかもしれない。
 エドはそう意識してないだけで本当は恋愛感情があるかもしれない」
っ……おい、…!!」
「……醜くてゴメン……、でも私は、私はエドを他の人に渡したくないから」



カチャリと静かにドアを開けた。
唇をきつく噛んで。
独占欲の塊。
貴方の眼には私だけを映したい。
でも貴方は優しいから、私以外の誰かにも優しく微笑むから。
私だけの笑顔は簡単に人のものになる。
それが嫌なの。
その手にその髪にその顔に。
触らないで誰も。



                 








                              わたしのものに さわらないで













 


                「愛してるよ」






            こ わ し た い ほ ど に 












































               扉が閉まる音がした。

































「……っんとにバカだなお前…」
「なんでよ…バカはどっちよ……」
に決まってんだろ。人の話は最後まで聞け」
「だから……、」
「聞きたくないってのは無しな。ちゃんと最後まで聞け」
「…………………」


逃げ出せないように抱きしめられた身体は容易に熱を帯びる。
こんな風にしたら挫けてしまう。
誰にも渡したくなくなる。
唇から少し血の味がした。


「確かに、俺は昔ウィンリィが好きだった」


聞きたくない。
お願い ウィンリィ なんて呼ばないで。
私の名前だけを呼んで。
好き これが私以外に対して発せられることに耐えられないの。
苦しいの。
息が詰まるの。




                                 ききたくない





「でもそれはあくまで『昔』だ。
 よく考えたらあれはただ単に周りに他の女がいなかったからかもしんねぇ。
 アルの次によく遊んでいた奴だし」


友情なんて容易く恋愛感情に変わることを知ってる?
今思えば、なんて当てにならないの。
自分のことが一番分からないんだから。


「それに今は本当に良い幼馴染だと思ってる。
 そりゃ確かに他の奴らに対する態度と違って見えるかもしんねぇけど、
 それが恋愛とかじゃないのは確かだ」


だから その言葉が信じられないの。
貴方のことは大好きだけど、愛してるけど。
それでも ウィンリィと貴方の絆が信じられないの。
その絆は幼馴染じゃない、って。
その絆はいつか愛に変わる、って。





「俺が愛してるのはだけだ」





わたしがあいしてるのもあなただけよ




「だから信じてくれ」




だからしんじられないの









背中から伝わる熱が。
耳の奥に響く心地良い声が。
頬に触れる透き通る金髪が。


貴方という人間の全てが。






「今から……すごい我儘言うね。
 きっとエドは呆れて、私なんか嫌いになってしまうと思うけど…」




なによりもいとしい




きつく閉じられていた腕を押し退けて、ゆっくりと振り向く。
たった数分間だけど、何十年も見ていなかったような感覚。
瞳を重ねる。
綺麗な金色の瞳。







「エドワード」





「エドワード、愛してる」





「この世界の何よりも貴方が好きよ」





「だから、私だけを見て欲しいの」





「他の誰も見ないで」





「他の誰にも触れないで」





「他の誰も愛さないで」



















「私だけを愛して」





































く る お し い ほ ど あ い し て る










































……」
「何?呆れた?」
「それってプロポーズか?」
「はぁ?何言って…!!」


そのまま包まれた。
見かけよりもずっと逞しい腕に。
力強い腕に。


「すっげぇ嬉しい」
「……なんでそうなるのよ。ウザいとか思わないの?」
「こんな熱烈な愛の告白にウザいなんて思うわけないだろ」


ぎゅっと、とても強く。
壊れそうなほど。
抱きしめられる。
抱きしめられている。


「…ほんと、嬉しいから」
「良いの?」
「何がだよ」
「私はこれからもエドの傍にいてもいいの?」


押し付けられた唇の熱。
血の味がするとエドが困ったように笑った。
私は堪えていた涙が零れそうになった。


「きっとこれからも私はウィンリィに嫉妬するし、
 てゆうかエドが他の女の子と話してたら許せないし。
 もしかしたらアルにさえ醜い感情ぶつけるかもしれないんだよ?
 それでも……本当に傍にいていいの?」


零れた涙をエドの舌が拭った。
何度も何度も温かな熱。
最後に唇に落とされたものに胸の奥が熱くなった。
至近距離で細められた金色の瞳が優しく微笑んだ。


「それ、俺以外の男には一生言うなよ」
「?」
「俺だけを愛せ」







ああ だから わたしはあなたがすきなんだ







「そんなの超簡単だよ」
「そりゃ良かった」


くすくすと二人は笑いあう。
緊張した糸が解れて温かな空気が流れた。


「不安にさせてごめんな」
「いいよ、勝手に嫉妬してるから」
「まっ嫉妬されるってのも男冥利につきるってもんだけどな」
「……いじわる」


いつもの意地の悪い笑いに悔しさが滲む。
いつだって彼のが一枚上をいく。
それでもその後の優しい笑顔ですぐに許してしまうんだ。



「言っとくけど、俺はを離す気ないからな」
「言っとくけど、私はエドから離れる気ないからね」





つまりは そう


複雑なようで単純な関係


僕らはもう一生離れられない








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