城に着くなりぞろぞろと人が出てきた。
一体どういうことなんだ、と問う前にエドワードはランプを渡される。


「……ったく、おい、おっさんが呼んでるぜ。早く行くぞ」


まだきっと車に乗っているだろうとエドワードは自身の後方に声を投げた。
しかし彼女の声は少しも返ってこず、視線の先になにやら騒がしい集団を見つけた。
その中心にいる人物を見るや否やエドワードの表情は一変する。


「あっあの……」
「嬢ちゃん可愛いねー」
「こんなところまで来て危ないじゃないか!」
「ここは俺達に任せて君は帰った方が良いよ」
「まぁ何かあっても俺が守ってやるさ」
「なってめっ抜け駆けしやがって!」


わーわーと大声を上げて自分を取り巻く男性たち。
このままの状態が続くと彼らに申し訳ないと何とか静かにしてもらおうと思ったが、
どうやら彼の方が行動が早かったようである。


「あの……私は…………ッ!?エッエド!!」
「おーまーえーらー!なぁに人の女に手ぇ出してんだよ!!」
「えっ?誰の?」
「だーかーら、オ・レ・の!」
「あははっ何言ってんだよアンタ!」
「確かにこんな可愛い子をモノにしたいって気持ちは分かるけどね、人間謙虚さが大事だよ」
「……ッ黙って聞いてりゃ言いたいこと言ってくれやがって…」
「あの……エド…?」


こめかみをひくつかせているエドワードには気が気ではない。
兎に角嫉妬深いこの人はどんな些細なことであっても頭に血が上ってしまう。
確かに嬉しい。
それは間違いないのだけれど、度が過ぎるのは少し困ったものである。
とりあえずこのままでは何の罪のない人々が頬を真っ赤に腫らすことになってしまうので、はエドワードの手を強引に引いて城内に入っていった。





















「エド……私に話しかけてくる男性を端から敵対視するのやめようよ……」


暗くて朽ちている城内を小さなランプの明かりだけで奥に進んでゆく。
マブゼーもいるので少し声を落として、自分の手を握るエドワードに声を掛けた。
案の定、エドワードは不機嫌な顔をこちらに向けている。


「何だよその言い方」
「別に私は嬉しいのよ?エドがそうやって嫉妬してくれること」
「じゃあ良いじゃん。はオレのだし」
「……〜〜ッ!でも!ちょっとしたことでもエドは直ぐに殴ったりするでしょう?何もしてないのに相手が可哀相じゃない!」


さらりと凄いことを言うエドワードに心臓を跳ねさせられるのはお約束。
素直なのか計画的なのか定かではないけれど、昔から乙女心をくすぐる術を身に付けているようだ。
というか、私が勝手にくすぐられているだけなのだけど。
何にしてもこれ以上被害者を増やすわけにはかなかった。
喧嘩っ早いのはいくつになっても変わらないようだし。


「何か、なんてしてるじゃん」
「私に話しかけただけじゃない」
「オレのに話しかける。以上、殴る要素が沢山」
「ああもう!少しは大人になってよ!」
「んなっ!?オレは大人だ!」
「どこが!そんな狭い心のどこが大人だって言うのよ!」
「あっはっはっはっは!」
「「?!」」


知らず知らずの内に声のボリュームは最大に近付いていたのか。
二人の子供じみた口論にマブゼーは笑いを堪えきれなくなりついに大声で笑っていた。
ハッとなってエドワードもも一気に顔を紅くし肩を縮めることになる。
マブゼーは「いやぁ君らもまだまだ若いね」などとご機嫌に暫く笑った。


「とりあえず、オレはの周りにオレ以外の男がいるのが嫌なんだよ」


しかめっ面で頬を桜色に染めたエドワード。
其れはやっぱり嬉しいもので、それ以上エドワードを責めることなんて出来やしなかった。
返事の代わりに繋いでた手を更に強く握っておいた。


「お二人さん、私もいるんだがね」
「えっあっ、えっと…あの…ッ」
「羨ましいだろ」
「ちょっエド!マブゼーさん、気にしないで下さいね」
「はっはっはっ。私があと二、三十年若かったら良かったものを」
「残念だったなおっさん」
「全くだ。まぁまずはドラゴンだ。ここに盗みに入った奴が見たという噂でね」


そういえば、とは顔を上げてマブゼーを見た。
しかしそこには彼の姿はなく、視線を下にずらすと何やら自分の鞄をごそごそと漁っていた。


「マブゼーさん?」
「ある事情で私は本物のドラゴンが必要なのだ」
「薬にでもするのか?」
「ふむ。これを……」


マブゼーが取り出したのは一丁の銃。
エドワードに差し出されている。
どきり とした。


銃。
人を殺す道具。
身を守る道具。
何に使うかは関係なく脅威には変わりない。
それをエドが持つのは嫌だった。
エドはそんなものに汚れてはいけないと思った。
自分が持ってエドを守るべきだと思った。



「マブゼーさん、私にも下さい」
「お嬢さんには危ないだろう」
「いえ、使うの慣れてますから」


マブゼーは一瞬驚いて、「そうか」と呟きにも一丁差し出した。
ずしりと其れが手に圧し掛かる。
久しぶりに持った。
出来れば持ちたくなかった。
それでも守るためには必要だった。
ぎゅっと握り感覚を取り戻す。
大丈夫、使える。
何かあったら真っ先にエドに襲い掛かるモノを撃つ。


「行きましょう」


の眼が変わった。
先程までの少女のような愛らしい眼とは打って変わった軍人の其れ。
かつての軍の狗だった記憶は尚も彼女の中からは浄化されていないのか。
エドワードはその眼を見ると胸が締め付けられた。

彼女が銃を持つのは決まって誰かの為だった。
誰かのため、その身がいくら血に染まろうとも進み続けた。
真っ赤な血の海の中で悲しく微笑む少女を守りたいと思った。
こんな場所に彼女がいていいはずなどないのだ。
それなのに再び彼女は銃を握った。
他でもない、オレのために。

自分の手の内にある黒く重たいそれを握りなおす。
彼女がそれを持つことを選んだのなら使わせないまでだ。
もうその白い手を汚す必要なんてない。













「では君に先に奥に行ってもらおうか」
「あ?」
「どうやらこの先にいるという話でね」
「……へぇ」


マブゼーの指した方向は細い螺旋階段の上であった。
真っ黒な闇が空間を侵蝕している。
そもそもドラゴンなどという話は信じていなかったが、この場所に居るといやがおうにも信じ込まされる。
ごくりと喉を鳴らして横にいるに眼をやる。
それは真っ直ぐと闇の先に向けられていた。


「じゃあ私も行きますね」
「あっおい!」


一人スタスタと歩みを進める彼女に、エドワードは仕様が無いと溜息を一つ。
急いでその華奢な背中を追った。














(2006/03/10)

sozai:Dear マインクリムゾン