深く薄暗い森の中。
エドワードとは茂みの中に隠れて敵が罠に掛るのを待った。


「エド…本当にブラッドレイだったの?」
「ああ」


エドワードはギリリと拳を握る。
も気が気ではない。
もしエドワードの見たというその人がブラッドレイだとしたら、其れはブラッドレイと戦った大佐の敗北を意味するから。
あの大佐が、そんな、まさか!
分かってはいるけれど、不安ばかりが込み上げる。
其の時一台の車が光を灯してやって来た。



「なんだぁ?こんな所に岩が…ッ!?」


車が止まるや否や、エドワードがすかさず運転手を気絶させる。
その隙には後部座席に座る男性の元に。


「突然ごめんなさい」
「何かな?」


そうこちらを見た男性は穏やかで、あちらの世界にいたブラッドレイのような毒気が感じられなかった。
は、もしかしたら違うかもしれない、と確信に近く思ったが、頭に血が昇ったエドワードは分からなかったようだ。


「キング・ブラッドレイ!!」
「エッエド!待っ…」
「はて、キング…とは私のことかな?」


その茶化した態度が気に障ったのか、エドワードはぐいっと男の顔を覗き込んだ。
はそんなエドワードを止めようとするが、エドワードの発した「大佐が…」と言う呟きにその手を下ろした。
エドワードは確かめようと、男性の左目――ウロボロスのマーク――を見る。
しかし其処には何もなく。


「人違い……」


そうだ。
ホムンクルスだって元は人間だったのだから、基になる人間がいたはず。

――だから、大佐が負けたんじゃない――

ホッと胸を撫で下ろしたが、よくよく考えてみると、つまりは全く無関係の一般人を襲ってしまったわけで。
(まぁ実質攻撃したのはエドだけど)
それに気付いたのか、エドもエドでやってしまったという顔をしている。


「あっあのごめんなさい!」
「お詫びする」
「いやなに、私はユダヤ人でね。金持ちユダヤ人だと分かると襲ってくる愛国者が多いんで慣れとるよ」
「でも…本当に、ごめんなさい」
「お嬢さん、誰にでも間違いはある。ご覧の通り私は無傷だ。……ところでどちらか運転は出来るかな?」
「「あっ」」


エドワードが気絶させた運転手を見て、エドワードとは顔を合わせて苦笑した。




「エド、今度は前見て運転してよ!」
「分かってるよ」


は後部座席の男性――彼はマブゼーと名乗った――の隣に腰掛けた。
こんな可愛い女性が隣に座るのは何年ぶりか!と喜んだマブゼーをエドワードはじろりと睨んでが諌めた。


「どちらに行かれるんですか?」
「ドラゴンを捕まえに行くんじゃよ」
「ドラゴン?」
「いやぁ丁度良かったよ、お前さんのような腕の立つのに会えて!」
「おいオッサン、まさかオレらにドラゴン退治でもしろと?」


半ば呆れたような声が前から聞こえた。
正直もドラゴンとは如何なものかと思った。
今まで何度も非現実的なことを味わって来たけど、ドラゴンなんてものにはお目にかかったことがない。
空想の産物ではないか?
其処まで考えて、は自嘲気味に笑う。








ああ、わたしたちもこのせかいいがいのところからきたくうそうのさんぶつじゃないのかしら。
ねぇここはわたしたちのゆめのせかい?
いつかさめるの?







遠くに目を遣ると、其処には古びた巨大なお城がそびえて見えた。
瞬間、の背筋にゾワリとした悪感が走る。



彼処には、なにか、いる。



言い知れぬ不安とは裏腹に、車は城内に入っていった。













(2006/03/10)

sozai:Dear マインクリムゾン