アルフォンスを除いた三人は此方に来て大分お世話になったエドワードの病院へと急いだ。
中に入るなり興奮した男の罵声が耳を襲う。


「あいつらは腰抜けだ!ドイツを守る気なんかない!」


医者は男を諭すように「仕方がない」と言うが、男は聞く耳を持たない。
共産党やユダヤ人への憎しみを吐露にしている。
エドワードたちはその隣で診察を受けることになった。


「相変わらず…ね、……」


がぽそりと呟いた言葉にノーアは俯いた。
それに気付いたはハッとなって声を掛けようとしたが、エドワードに呼ばれて飲み込んだ。


、コートを頼む」


その声に漸く男はエドワードたちの存在に気付いたようだ。
こちらを見ると驚いたように大声を上げる。


「お前らそんなヤツ連れてんのか?!」


間違いなくノーアを見て発せられた言葉に、もエドワードも顔をしかめた。


「何が悪い!」
「ジプシーもユダヤ人と同じだ!自分達の国を持たないくせにドイツにやって来て俺たちの仕事も金も国さえも奪う!」
「だからってどうしてそんなに一方的に…!!」


危うく喧嘩になりそうなところを、ノーアの一言が治めた。

―――――慣れてるから……

少し呆れたような、悲しんでいるような声にエドワードもも押し黙り、そのまま病院を後にした。







正午、街の広場で食事を取る。
しかし先程の男とのやりとりの所為か図らずも沈んだ表情を浮かべてしまう。


「嫌な思い…、させちゃったね……」
「別に。ジプシーでもボヘミアンでもジタンでも、好きなように呼ぶといいわ」


どこか投遣りに発せられた言葉。
おそらく今までも辛い思いを数えきれないほどしてきたのだろう。
の胸はきりりと痛んだ。


「なぁ、お前たちは自分達を何て呼ぶんだ?」
「……ロマ」
「どういう意味なの?」
「…、人間って意味……」


ただ人種が違うだけで、どうしてこんな風にいがみ合うのだろう。
国と云うものに縛られてしまうのだろう。
どんな血が流れていたって、どんな経歴があったって、人間と云うことには変わりはないのに。
どんな人も、全の中の一。
一つのものから其々が分かれた。
元を辿れば全ては一つのものから始まった。
魂の記憶は、みんな、繋がっている筈なのに。
どうして、自己と違う他を認めることが出来ないのだろう。


「……っ!っ!!」
「えっ?」
「キング・ブラッドレイだ!!」
「ちょっエド…っ!?」


言うなり一台の車を追い掛けて行ってしまったエドワード。
いつまでたってもあの人は!
半ば呆れ気味に溜め息を吐くとノーアに食器を手渡す。


「一人で帰れるよね?ごめん、すぐ戻るから!」
「えっあのっ…!」


もかつては其の名を知られた国家錬金術師。
風のようにノーアの前から立ち去った。










(2005/02/16)

sozai:Dear 水没少女