「た、ただいま」
「お帰りなさい、さん、エドワードさん」
「おう」


ドアを開けるとすっかり目覚めている爽やかなアルフォンスがいた。
既に朝食は済んでいるようだ。
(元々アルフォンスは料理が得意ならしく、が無理せずとも彼は勝手に出来るのだが、ここは居候の身、とが家事全般を引き受けたのだった。)
アルフォンスは二人の関係を存分に知っていたので朝帰りにも大して気を留めた様子ではない。
しかしながらノーアにしてみれば、朝起きたら隣に寝ていたはずのがいなくなっていたわけで。
何処に行ってたんですか、と不安気に問うてくるノーアに、は苦笑うしかなかった。


「ところで、今日はさんどうするんですか?」


新聞から顔をあげたアルフォンスが尋ねる。
いつもの日中たいていはアルフォンスと一緒に研究室に通っていた。
その間エドワードはというと、以前より研究室からは随分と遠退いて、病院に行ったり、日雇いのバイトをしたり。
時には図書館へと足を運ぶが2年もいるこの街で新しいことが発見出来る筈もなかった。
しかしながら今日からは新たな居候ノーアがいるわけで。
とアルフォンスが行ってしまえばエドワードとノーアは二人きり。
そこを考えてアルフォンスは尋ねたのだ。


「……えっと、」


ちらりとエドワードに目を遣ると、彼は意地悪く微笑んだ。
ここで素直に行かないと言うのは何だか癪であったが、意地を張って彼とノーアが二人きりと言うのはとてつもなくムカムカする。
は悔しそうに顔をしかめて(勿論ノーアには見えないように)、今日は遠慮するわ、と告げた。



「今日はとうとう僕たちの工場が持てるんですよ」
「ほんと!?やったじゃないアルフォンス!時間があったら顔出すね!」
「みんなも今日はさんが来ないから楽しみにしてますよ」
「あははっ、うん、まあうまく言っといて」
「任せて下さい。それじゃあ行って来ますね」
「いってらっしゃい!」


見送るとき、は小さく「ごめんね」と雫した。
アルフォンスは一瞬目を見開いて、すぐに微笑みを見せた。
そしての頭をぽんぽんと叩いて、階段を降りて行った。
そんな様子を遠くから見ていたノーアが呟くようにエドワードに尋ねる。


さんとアルフォンスさんは、恋人同士なんですか?」


人一倍独占欲が強く嫉妬深いエドワードにとって明らかに地雷を踏んだ発言である。
玄関から戻ってきた何も知らないを強引に引き寄せその腕に閉じ込めた。


「ちょっ、エドっどうしたのよいきなり!」
「オ・レ・の、恋人だ」


半ばヤケになって一際所有格を強調するエドワード。
はすっかりその腕の中で真っ赤に染まっていた。
ノーアは一言、すみません、と言うしかなかった。










「じゃ、じゃあエドの病院行こうかっ!」


先ほどのこともあってか未だに頬を染めたままのをエドワードはくすりと笑い、 「時間も遅いしな」と肯定の言葉を付け加えた。
そんなエドワードの態度にカチンと来たので軽く小突くと、はノーアの手を半ば強引に引いた。


「………ッ!!」
「あっごめッ…!嫌だった?」


ノーアは咄嗟にの手を振り払ったのだ。
そして節目がちに首を横に振ると小さく声を漏らした。


「……鎧が…、鎧が貴方達と歩いていた……」
「!?」
「なっノーアお前それ…!?」
「あと…優しい笑顔…、きっとさんのお母さんね……」
「……………」
「それから…綺麗な草原にある村……」


がくしゃりと顔を顰めたのがエドワードには感じられた。
故郷の記憶。
今となっては手に入らないもの。
胸に刺さるのは当然だった。
エドワードもぎりっと拳を握る。


「エドワードは非科学的って言ったわよね?でも、これが私の見たこと……。貴方達のいた世界ってどんなところなの?」
「………ここと、何にも変わらないわ」
「ああ、ちょっと名前が変わったり、場所が違ってるだけで……同じ顔の奴もいる」


アルフォンスも、きっとアルが元の姿に戻ったらあんな風だろう。
ヒューズ中佐も性格は違うけれど、確かにいる。
グレイシアさんに至っては前の世界と変わらず優しい。
他にも…出逢っていないだけで、大佐や中尉、少尉みたいな人もいるのだろう。
自分たちがいた世界と真そっくりなこの世界は、逆に思い出を忘れさせてくれない罰のようだった。
もう帰れないのに、どこかで其の希望を棄て切れない。
胸が、締め付けられる。


「如何して…貴方達はこっちの世界にいるの?」
「……あっちの世界で弟が死んで…それを蘇らせるにはオレが此処に来るしかなかった…」
さんは……?」
「私は…、……エドと一緒に対価を払いたかったから、かな?エドの弟のアルは私にとっても大事な人だったから……」


悲しそうに笑うにエドワードは彼女を抱き締めたい衝動に駆られた。
本当ならば自分だけで良かったはずだ。
其れなのに…彼女は彼女自身も対価に差し出した。
練成しようと自分の身体に手を当てた瞬間、彼女が自分を抱きしめて来たのだ。
そうして二人で扉を開くことになった。
そうして二人は此方の世界に来ることになった。
不幸中の幸いか、お互い人間の形で同じ場所に来れたのは。
エドワードは自嘲気味に微笑む。


「…、此処は…オレに与えられた地獄なのかもな……」
「……エド………」
「二年前、ルーマニアでアルフォンスに出逢った。弟が成長してたらこんな風になってるのかと思った。………だから此処は…、オレの夢なのかもしれない…」













ここは ゆめ なんかじゃないよ
だって ゆめ なら もっとたのしい はずだもの
せんそうも あらそいも こわいことも なにも ない はずだもの
ここにきて わたしもエドも たくさんきずついた
もとのせかいにもどりたい なんて ゆめのなかじゃおもわないわ

エドは いきて ここに いる
わたしも いきて ここに いる
アルフォンスも ここで いきている

どうせみるならしあわせなゆめがいい

(ほんとうはエドがいるならゆめでもじごくでもどこでもいいの)











(2006/01/27)執筆
(2006/03/07)加筆


sozai:Dear マインクリムゾン